○意義
・担保権設定者(債務者または物上保証人)は、担保権設定後も目的物を手元に置き、使用・収益できるが、弁済期到来後も弁済がなされない場合は、担保権者が目的物の換価代金から優先的に弁済を受けることができる。
○諸原則
・抵当権の存在の公示を要求する(公示の原則)
・抵当権の目的不動産につき特定を要求する(特定の原則)
・抵当権が一度得た優先順位は後から下降させられることはない(順位確定の第一原則)
○性質
・付従性が認められるが、一定の局面にて緩和されている。また、根抵当権は原則として付従性を有しない。
・随伴性が認められるが、根抵当権は原則として有しない。
・不可分性や物上代位性も認められる。
○設定
・抵当権設定契約の当事者は、債権者と抵当権設定者である。
・物上保証人や、物上保証人から目的物を取得した第三取得者には、351条 の求償権に関する規定が準用される。
・抵当権は、登記を対抗要件とする。未登記抵当権は第三者に対する対抗力はなく、優先弁済的効力は認められないが、競売権は有する。
○被担保債権の範囲
・抵当権の被担保債権は、通常は金銭債権であるが、それ以外の債権であっても債務不履行による損害賠償請求権に原則として転換されるので、被担保債権となる。
・元本債権は全額担保される。第三者との関係では、登記された債権額の範囲で優先弁済を受ける。(不動産登記法83条1項1号)
・利息は原則として、満期となった最後の2年分についてのみ担保される。(375条1項)ただし、かかる第三者が存在しなければ、利息の全額についての配当を受け、後順位抵当権者が存在する場合でも、配当してなお余剰があれば、2年分を超える利息についてもさらに配当を受けることができる。
・遅延損害金は、最後の2年分のみが抵当権によって担保される。(375条2項)
・違約金については規定がないが、一般に賠償額の予定と推定されるので、その額が元本に対する率で定められているときは、遅延損害金として扱われる。違約金が一定額で定められていると、実務上その額を登記できないため、第三者に優先権を主張しえない。
○目的物の範囲
・目的である不動産(以下、抵当不動産)に付加して一体となっている物(=付加物、付加一体物)に及ぶ。この付加物には、付合物 が含まれているが、従物 も含まれているかについては論争がある。なお、設定行為に別段の定めを登記した場合、および、債務者の行為について424条3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合には、抵当権の効力が例外的に付加物に及ばない。
・借地上の建物に抵当権を設定した場合、従たる権利である借地権にも及び、建物買受人は借地権付建物を買受けることとなる。
・立木法上の立木を、土地とは別個に抵当権の目的物とすることができる。
・抵当権の効力は、被担保債権につき不履行が生じた時は、その後に生じた天然果実および法定果実に及ぶ。
○代価弁済
・競売代金が一般に時価より低く、また抵当不動産の値上がりも見込めないと考え、実際に行われた売買代金で満足する時に、抵当権者の請求により第三取得者がこの代金を抵当権者に支払って、抵当権を消滅させることができる。(378条)
・所有権や地上権については認められるが、永小作権や賃借権には認められない。
・第三取得者が地上権取得者であるときは、抵当権そのものは消滅しないが、地上権は抵当権に対抗しうるものとなる。第三取得者は、抵当権者に支払った範囲で代金債務を免れる。
○物上代位
〈意義〉
・担保目的物が滅失または損傷したような場合、設定者が受けるべき「金銭その他の物」に対しても、担保権の効力を及ぼすことができる。
〈目的物〉
・抵当権には追及力があるため、売買代金には物上代位は認められない説が有力である。
・賃料債権への物上代位が認められる。(判例、371条も参照)
・不法行為に基づく損害賠償請求権、火災保険請求権への物上代位が認められる。
〈要件〉
・設定者に代位物が払い渡される前に、設定者の有する代位物に対する請求権を差し押さえなければならない。(372条・304条1項但書)
・物上代位権行使の手続きは、債権を目的とする担保権実行手続と同様である。
(民事執行法193条1項2項)
○目的物の侵害
〈第三者による侵害〉
・抵当権に基づく妨害排除請求権が生じる。これは、たとえ目的物がなお被担保債権の弁済に十分な価値を有している場合にも、目的物の価値が減少するときは、請求権が生じる。
・付加物の分離および搬出、目的物の損傷などに、物理的損害が認められる。
・第三者が抵当不動産を不法占有することにより、価値の下落をはじめとした抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき、妨害排除請求権が認められる。
・妨害排除請求権の例として、抵当山林の立木伐採および搬出の禁止請求、法律上は無効であっても抹消されずに残っていて事実上抵当権行使の障害となりうる登記の抹消請求、抵当不動産の従物のみに対してなされた強制執行に対する第三者異議の訴え(民執38条)などがある。
・侵害により目的物の価値が減少し、被担保債権が十分には満足されなくなる場合にはじめて、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する。
〈債務者・設定者による侵害〉
・債務者の帰責事由により、抵当不動産を滅失・損傷または減少させたとき、債務者は期限の利益を失う。(137条2号)
・抵当不動産の損傷・滅失の場合に抵当権者が増担保を請求しうるかについては規定がない。特約がない時は、債務者が不法行為条の責任を負うべき場合などに限り、増担保請求をなしうる説が有力である。
○法定地上権
〈意義〉
・土地と建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物に抵当権が設定され、競売により土地所有者と建物所有者が異なる場合、土地所有者である抵当権設定者は競売の際に地上権を設定したものとみなす。(388条)
〈成立要件〉
・抵当権設定時に、土地の上に建物が存在すること。
・土地と建物が、同一の所有者に属すること。
・土地と建物の一方に抵当権が設定されたこと。
・競売の結果、土地と建物が異なる所有者に属するに至ること。
○一括競売権
・判例や通説によると、更地に抵当権を設定した後に建築された建物には、法定地上権は認められない。しかし、土地の競売を円滑にするため、土地抵当権者に、土地と建物を一括して競売に付する権限を与えた。(389条1項)
・上記に加えて、土地抵当権者に対抗しうる占有権原を有しない土地占有者が、土地抵当権設定後に建築した建物も、一括競売の対象になる。(389条1項2項)
○建物明渡猶予制度
・短期賃貸借保護制度の廃止 にともない、395条に規定される。
・建物賃借人は、建物の競売による代金を競売の買受人が納付した日から6ヶ月間は、当該建物の明渡を合法的に拒むことができる。ただし、明渡しを拒む期間中は、建物所有者である買受人に対して、占有者(賃借人)は賃料と同額の金銭を買受人に支払う義務を負う。また、買受人に催促されたにも関わらず支払わない場合は、占有者は明渡しを拒むことができない。(398条2項)
○抵当権設定登記後の賃借権
・抵当権者の同意があるとき、賃借権は抵当権に対抗できる。(387条)
〈要件〉
・賃借権の登記があること。
・賃借権の登記前に登記した抵当権を有する全ての者が同意すること。
・抵当権者の同意について登記がなされること。
○第三取得者と抵当権の関係
・抵当権付不動産は所有者である抵当権設定者が、第三者への売却ができる。このような時には、抵当不動産を時価あるいは時価に近い価格で買受ける第三取得者を保護するための制度が存在する。
・代価弁済については上述(378条)
・第三取得者による抵当権消滅請求(379条)については後述
〈抵当権消滅請求〉
・抵当権付不動産を取得した第三取得者は、自身が適当と認める金額を債権者に呈示し、抵当権の消滅を要求することができる。(379条)
・債権者がこの要求から2ヶ月以内に任意競売の手続きを行わない場合には、第三取得者が呈示した金額の支払いで抵当権が消滅することを債権者が承諾したことになる。(384条)
・平成15年改正前までは、滌除 の制度が採用されていた。
○抵当権の処分
・転抵当、抵当権または抵当権の順位の譲渡・放棄、並びに抵当権の順位の変更が認められている。(376条1項・374条)
・抵当権の処分は、被担保債権と切り離して抵当権の処分を認めている。(付従性の緩和)
〈転抵当〉
・抵当権者がその抵当権を他の債権の担保に供すること。この場合、担保の対象となる他の債権を有する者が転抵当権者である。
・抵当権者と転抵当権者の合意によって成立し、抵当権の付記登記を対抗要件とする。ただし、元の抵当権債務者に通知しまたはその承諾を得なければ、当該債務者および保証人などに対抗できない。(377条1項)
・抵当権者は、転抵当によって債権を事前に回収するのと同様の効果を得ることができる。
・転抵当権者は、元の抵当権に実行の要件が備わった時には、その抵当権を実行し、当該抵当権の被担保債権の限度において、優先弁済を受けることができる。また、原抵当権の被担保債権が弁済された場合、受益者たる転抵当権者の承諾がなければ対抗できない。
(377条2項)
○抵当権の譲渡・放棄
・譲渡とは、処分者の有する優先弁済権を、受益者に取得させることをいう。また、放棄とは、処分者の有する優先弁済権を、受益者との関係では主張しないことを指す。
・抵当権自体の譲渡および放棄の場合、「受益者=一般債権者」だが、抵当権の順位の譲渡および放棄では、「受益者=他の債権者」となる。
・抵当権自体の放棄において、抵当権者(処分者)の有する優先弁済権を、一般債権者に主張しないことになるが、当事者間での優先弁済権の平等取扱により、債権額に応じて配当される。
〈対抗要件〉
・抵当権の処分者からの債務者に対する通知、または債務者の承諾が対抗要件となる。
・第三者に対する対抗要件としては、受益者の承諾を得ることである。
(377条1項2項)
○順位の変更
・抵当権の順位の変更には、抵当権者全員の合意を要する。(374条2項)
・その他利害関係を有する者のあるときは、その承諾を要する。(374条1項但書)
○消滅
・物権共通の消滅原因および担保物権の消滅原因で消滅する。
・代価弁済、抵当権消滅請求、競売によっても消滅する。
・抵当権は20年間行使されなければ、時効消滅する。(166条2項)もっとも、債務者および抵当権設定者に対しては、被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない(396条)
・抵当不動産の時効取得により、抵当権も消滅するが、債務者および抵当権設定者にまでこれを認めることは適当ではないため、これらのものを除外する(397条)
・地上権または永小作権につき抵当権を設定した者は、これら用益権を放棄しても、これを抵当権者に対抗しえない。(398条)借地上の建物に抵当権を設定した者の借地権放棄・借地契約の合意解約の場合も、同様に解される。
○抵当権の実行
〈担保不動産競売手続〉
・抵当権者の申し立てを受け、執行裁判所が競売手続きを行う。
(民執188・44条・45条1項)
・最高化で入札した者が抵当不動産を買受けることとなり、売却代金から抵当権者は順位に従って優先弁済を受ける。(民執84〜88条)
・抵当不動産上の抵当権は消滅する。
〈担保不動産収益執行〉
・一般債権者の申立てにかかる強制管理の手続きが準用される。(民執188条)
・賃借人は収益執行管理人に対して、賃料を支払う。(民執98条)
・管理人は、収益から不動産管理に必要な費用を控除した後、執行裁判所の定める期間毎に配当等を実施する。ただし、債権者間に協議が調わない場合は、執行裁判所により配当が実施される。また、抵当権者は、自ら収益執行の申し立てをしないと、配当をもらえない。
・現在抵当不動産が賃貸借に供されていない場合であっても、管理人はこの不動産を第三者に賃貸することができる。
・収益執行が行われている建物について競売が行われたときは、抵当権に後れて設定された賃借権は、管理人により設定された賃借権といえども競売により消滅し、賃借人は買受け後6ヶ月以内に建物を明け渡すべきことになる。(395条)
○共同抵当
・同一の債権を担保するため、2つ以上の不動産の上に抵当権を設定することができる。
・共同抵当である旨の登記がなされるが、後順位抵当権者等は共同抵当である旨の主張をし、利益を受けることができるので、対抗要件としての意味はない。
・同時配当の場合、それぞれの不動産から、それぞれの目的物の価格の割合に応じて弁済を受けることができる。
・異時配当の場合、抵当権者はその代価から債権の全部の救済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額(同時配当の場合にもらえるはずの金額)を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。(392条2項)
・共同抵当の目的不動産の全部が物上保証人に属する場合、全部が債務者に属する場合と同じ処理をする。(判例による392条の準用)また、一部が物上保証人に属する場合、抵当権の全額について求償権の範囲で代位する。
○根抵当
・定められた「極度額」と「債権の範囲」の範囲内であれば、不特定の債権を担保する制度のことである。根抵当権の確定により、担保される元本債権が特定し、確定するまではここの債権の発生や消滅による影響を受けない。
〈性質〉
・根抵当権が確定するまでは、付従性および随伴性を有しない。
・不可分性や物上代位性は認められる。
〈設定〉
・設定契約には、必ず被担保債権の範囲および極度額を定めなければならない。また、元本確定期日が定められることもある。
・根抵当権の対抗要件は登記であり、設定登記にはこれらの事項が記載される。
(不登88条2項)
〈被担保債権の範囲〉
・根抵当権によって担保される不特定の債権は、一定の範囲に属するものでなければならず、原則として、債務者との一定の種類の取引によって生じるものに限定される。
・取引は、具体的な継続的信用取引契約によって生じるものはもとより、抽象的な取引によって生じるものでも良い。
・第三者と債務者の取引によって第三者が取得した債権を根抵当権者が譲り受けても、被担保債権とはならない。ただし、特定の原因に基づき債務者との間に継続して生じる債権や、手形上または小切手上の請求権、電子記録債権については、契約によって被担保債権となしうるものがある。(398条の2第3項)
〈極度額〉
・元本、利息その他の定期金および債務不履行による損害賠償の全部につき、極度額を限度として優先弁済を受ける。(398条の3第1項)
〈確定期日〉
・根抵当権の確定により、担保される債権の元本を特定するが、当事者は5年以内の日においてあらかじめ定めることができる。(398条の6第1項)
〈変更〉
・元本確定前においては、変更契約により、極度額・債権の範囲・債務者・確定期日を変更し、登記によって効力を持つことができる。また、根抵当権の効力の及ぶ範囲の変更もできる。ただし、極度額の変更については。利害関係人の承諾が必要となる。
(398条の4〜7参照)
・根抵当権者の相続人と設定者が合意した場合、合意によって定められた相続人が債務者に対して取得した債権も担保することとなる。この合意には、後順位抵当権者などの承諾を必要としないが、合意につき相続後6ヶ月以内に登記しなければ、元本は相続開始前に確定したものとみなされる。(398条の8第3項4項)
・根抵当権者と設定者が合意した場合、相続開始時点および相続開始後に根抵当権者に対して負担した債務も担保することとなる。後順位抵当権者の承諾不要や、登記の期限については、上記と同様である。
・元本確定前に根抵当権者たる法人が合併した場合、合併時および合併後に取得した債権も当然に担保する。ただし、設定者がこれを望まないときは、設定者は元本確定請求ができる。
・元本確定前に債務者たる法人が合併した場合、合併時および合併後に負担する債務も当然のように担保する。ただし、債務者以外の設定者がこれを望まないとき、元本確定請求ができる。
〈確定後〉
・担保されるべき元本債権が確定し、それ以後に発生した元本債権は担保されない。ただし、利息については、確定後に発生した場合でも、極度額までは担保される。
・確定後の根抵当権は、普通抵当と同様の扱いがなされる。
・元本確定時に存在する債権額が極度額をかなり下回っているとき、極度額を、元に存在する債務額とその後二年間に生じる利息や遅延損害金の額とを加えた額に減額できるよう、請求することができる。この極度額減額請求権は、根抵当権者への一方的意思表示により効力を生じる。(398条の21第1項)
・元本確定時に存在する債権額が極度額を上回っているとき、物上保証人、または抵当不動産について所有権・地上権・永小作権もしくは対抗力のある賃借権を取得した第三者は、極度額を根抵当権者に支払うか供託することで、根抵当権消滅請求を行える。極度額を上回った額については、無担保債権として扱われる。(398条の22第1項)
〈共同根抵当権である場合〉
・被担保債権の範囲を共通にする根抵当権の設定を受けた場合、各々の不動産につき極度額の限度で優先弁済を受けられる累積根抵当と、両不動産合わせて極度額の限度でしか優先弁済を受けえない共同根抵当がある。(398条の18および16)原則として、累積根抵当が採用されている。
・共同根抵当権は、根抵当権設定と同時に共同担保である旨の登記がなさなければならなず、また、被担保債権の範囲、債務者および極度額が各不動産について同一でなければならない。(392・393条を適用)
・被担保債権の範囲、債務者もしくは極度額の変更、または根抵当権の譲渡・一部譲渡は、すべての不動産に同一に行わなければならず、その登記をしなければ効力を生じない。
(398条の17第1項)また、一つの不動産について確定事由が生じたときも、共同根抵当の担保すべき元本は確定する。(398条の17第2項)
閲覧ありがとうございます。
他の記事の閲覧を希望される方は、この文章をクリックしてください。