租税法総論
個人所得課税の特徴
・累進税率と合わせて所得再分配効果に優れる⇔現役世代がより重い税負担を負う(所得税は公平?)
・景気の変動を調整できる(built-in stabilizer)
⇔税収が景気に左右されやすい
・納税者が自身の税負担をコントロールしやすい
⇔租税回避が行われやすい
・税制の目的を所得再分配とすると、「最良の租税」ともいえる
⇔税制の目的がそれでいい?
課税所得金額の算定
所得(収入ー経費)ー所得控除=課税所得金額税率の種類
・比例税率→所得額によらず一定の税率
・単純累進税率
→所得額全体にかける税率が増えていく
・超過累進税率
→所得額の区分ごとに税率が増えていく(日本が採用)
税額控除
税額を直接減らす控除→政策的なものが多い
→通常の寄付:所得控除
⇔政党などへの寄付:税額控除、住宅ローン控除
→所得控除よりも所得再分配機能に優れる(←累進税率)
→所得控除を税額控除に変えるべきでは?
納税義務の範囲
所得税を納めるべき「個人」とは?→日本の永住者:全世界の所得
非永住者:国外で稼いで送金されていないもの以外の全ての所得
非居住者:国内で稼いだ所得
→いずれにせよ、原則としていわゆる自然人
(法人も源泉徴収する場合には納税義務あり)
一定の所得については、所得税は課さない
→ただし、「誰が稼いだ所得か」による非課税は存在しない
→天皇であっても、内定費や皇族費を除き、所得税の納税義務はある
→相続税でも「由緒ある物」以外にはかかる
*課税単位の種類
所得税を計算し納める単位をどうすべきか?
→個人単位主義
→結婚していようが1人ずつ納める
→日本では個人単位主義が大原則
→疑問点あり
・片稼ぎカップルが共稼ぎのカップルに比べて不利
→所得分割に弱い
→配偶者控除
→必要経費性の原則否定
・少子化対策としての世帯単位主義課税?
→消費単位主義
→消費をする単位ごと(夫婦、家族)
→単純合算方式
→全員の所得を合算して累進税率を適用
→n分n乗方式
→全員の所得を合算した後、人数で割ってから累進税率を適用して足し戻す
→外国では消費単位主義の国も多い
・アメリカ:選択的夫婦単位主義&2分2乗方式
・フランス:強制的世帯単位主義&n分n乗方式
弁護士が別の事務所に勤めている弁護士の配偶者に報酬を支払った
→必要経費になる?所得税法56条が適用される?
→所得税法57条は適用できないが、これは違憲?
↓
第一審:所税56条が適用され、当該報酬は必要経費に算入できない
控訴審:同上
→所税56条は、所得分割による「納税者間における税負担の不均衡」を是正する規定
→親族が「別に事業を営む場合」でも、この趣旨には該当する
→他社と同額の報酬を支払っている場合でも所得分割と言える?
→「ビジネスパートナーとは結婚するのが不利」は現在の社会情勢に合致する?
→所税57条の適用対象にもなれないことは、著しく不合理とは言えない?
弁護士が税理士の配偶者に報酬を支払った同種の事案では、所税56条は適用されない事例
→覆った
人的控除
生存権保障…憲法25条1項 生存権侵害の課税は禁止(差し押さえ禁止財産など)↓
所得額全額に対して課税できない(最低生活費の非課税、課税最低限)
趣旨:「健康で文化的な最低限度の生活」を送るための所得は非課税
↓
平成30年に改正
*基礎控除制度(所得税法86条)
従前は年間38万円が非課税⇔給与所得控除と合算で課税最低限とされた(103万)
平成30年度税制改正で、低所得者は48万円に増額(給与所得控除は減額)
※所得額につれて漸減する制度に変更
→高所得者の生存権保障は?
→生活保護基準より低額では?
無所得の配偶者や家族の生存権保障
→所得がないので基礎控除では保証できない
→社会保障制度は世帯単位なので、無所得の配偶者は給付なし
所得がある納税者の所得計算において控除することで、所得がない配偶者の生存権を保証する
⇔「内助の功」論
合計所得金額が2500万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その居住者の合計所得金額が2400万円以下である場合 48万円
二 その居住者の合計所得金額が2400万円を超え2450万円以下である場合 32万円
三 その居住者の合計所得金額が2450万円を超え2500万円以下である場合 16万円
*平成29年度改正
配偶者控除は、世帯全体での控除額をそろえる消費単位主義的な制度
→片稼ぎの納税者に有利(個人単位主義と比較)
税額ではなく所得控除なので、高所得者が有利
→片稼ぎの高所得者が有利
→所得の再分配、女性の社会進出の観点から望ましくないのでは?
平成29年度改正により、所得を稼得する納税者の所得額に応じて、配偶者控除の額を減額する制度(逓減控除)を導入
→高所得者の配偶者の生存権保障は?
配偶者控除を受けられるのは、法律上の配偶者に限られる
→現在の社会情勢に合っているのか?
→同性パートナーシップ制度の全国導入
→憲法14条違反の問題
→社会保障制度では事実婚も含む
→税法が私法上の配偶者に拘る必要はあるのだろうか?
居住者が控除対象配偶者を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その居住者の第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(以下この項、次条第一項及び第八十六条第一項(基礎控除)において「合計所得金額」という。)が九百万円以下である場合 三十八万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、四十八万円)
二 その居住者の合計所得金額が九百万円を超え九百五十万円以下である場合 二十六万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、三十二万円)
三 その居住者の合計所得金額が九百五十万円を超え千万円以下である場合 十三万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、十六万円)
2 前項の規定による控除は、配偶者控除という。
所得概念論/非課税所得
所得とは?→所得税の課税対象は「所得」=儲け
→通常、いくら手元に残ったかという観点から考える(=取得型所得概念)
⇔いくら使ったのか(=消費型所得概念)
→その範囲は?
制限的所得概念(所得源泉説)
→反復継続して得られる儲けのみが課税所得
包括的所得概念(純資産増加説)
→貯めたり使ったりできる全ての儲けが課税所得
→所得=貯蓄+消費
→どのように得られた儲けにも課税するという点では公平
→現在の日本、アメリカ
⇔所得だとされるべきなのに実際には課税されていないものもある(実現原則)
→ 評価益:物の値段が上がった利益
帰属所得:払わずに「浮いた」お金
フリンジ・ベネフィット:勤務先から受ける利益
⇔貯蓄の阻害
→貯蓄すると、いったん儲けに課税→利息にも課税(=将来の消費)
→消費すると、いったん儲けに課税されるだけ
人的な非課税制度は日本の税制にない
⇔物的な非課税制度は存在する
→金銭のやり取りについては、所得税の課税があるかが問題となる
→個別の法律で決まっている非課税制度もある
・生活保護給付:生活保護法57条
・健康保険 :国民健康保険法68条
・宝くじ当選金:当せん金付証票法13条
所得税法9条における非課税規定
・通勤手当:かつては給与所得として課税対象
・ノーベル賞の賞金
・学費充当金品等:給付型奨学金など
・ベビーシッター補助
・相続、贈与によって取得した所得
前提:利息は、未収であっても弁済期が来れば課税対象
金融業者である原告が、利息制限法違反の利率で貸付け
→弁済期が到来すれば未収の制限超過利息でも課税対象?
↓
第一審:一定額については処分取消し(=未収なので課税対象外)
控訴審:同上
→判決は、包括的所得概念を論拠としたものではない
⇔違法な所得でも課税することは、包括的所得概念と親和的
→盗んだお金でも、脱税指南の報酬でも、なんでも課税所得
→脱税のための費用は法人税法上、控除できない:SVC事件
→後で返したら、更正の請求(さかのぼって税額を減らす手続き)
⇔借入金が所得とならないことと整合する?
⇔そもそも、違法な所得について、課税対象とみるべき?
収入金額と必要経費
「所得」をそのまま捉えることは困難→入ってきたモノ(収入、グロスの所得)としてまず把握し、経費を控除することで算定
⇒所得=収入ー経費
収入金額とは?:所得税法36条
→金銭、物、権利、経済的な利益はすべて収入金額とする(包括的所得概念)
実現主義
→実際に金銭や権利になって初めて課税する(⇔包括的所得概念)
→資産の値上がり益や貴族所得は収入に含まれず課税対象にもならない
⇔一定の未実現所得は「別段の定め」として算入
→自家消費
→農作物の収穫時課税
→株式などの金融商品に、値上がり段階で課税する議論もある
収入の年度帰属は?
→所得税法36条は、その年において「収入した金額」ではなく「収入すべき金額」が課税対象
→実現主義:実際に収受しなくても課税対象とする
⇔現金主義:実際に現金を収受して初めて課税する
→金額も不明で得られる蓋然性も低い段階と、実際に得られた段階の間に仕切りを作る
→なぜ実現段階で課税?
→未実現の所得は範囲が不明確、実際に課税できる?
→現金収受まで課税を行わなければ、納税者が課税時期を操作可能で不公平
権利確定主義(原則)
→収入を得る権利が確定した段階で課税する
(契約日≠権利発生日だとは限らない)
→権利の確定時期は、収入を得る態様によって異なる
→資産の譲渡:資産の引渡し時期
→資産の貸付けや役務(サービス)の提供:支払日
管理支配基準(例外)
→違法所得も所得であるなら、それを「収入すべき」時期とは?
→「権利」を観念できないので、権利確定主義が通用しない
⇒所得の現実の管理・支配を基準とする(管理支配基準)
土地の賃貸人である個人の原告が、賃借人に対して賃料増額を希望する旨の請求(昭和30年、民事訴訟へ)
昭和37年に控訴審判決が出た後、昭和40年の上告棄却で増額分の支払いが最終的に確定
昭和37年及び39年、控訴審判決に基づく仮執行宣言によって賃料の一部が支払われた
これは昭和37~39年の所得か、昭和40年の所得か?
↓
原審:別訴控訴審「判決が破棄されないことを解除条件とする暫定的なもの」
→昭和40年分の所得と判示し、納税者が勝訴
⇒権利確定主義についてのみ言及、判決確定日ではなく現実の収受時に課税を行うべき
→本件では現実の収受によって権利確定?
⇔実現主義と現実主義の区別は?
⇒言及はないが、例外としての管理支配基準を用いた判決かも?
⇔違法利得ではないのに管理支配基準を用いていい?
⇔「収入した」になってしまっている、という批判から逃れられている?
*経費控除の概要
収入ー経費=所得
=貯蓄+消費(包括的所得概念)
→経費=(収入ー貯蓄)ー消費
収入のうち貯蓄しなかったもののうち、消費に使わなかった分が経費
貯蓄や消費に仕えた、担税力を増加させる利得である所得を算定するために経費を控除する
所得を得る態様によって、支出における消費の占める割合が異なる
→所得分類ごとに、経費控除の範囲は違う
ex)譲渡所得:取得費など
一時所得:その収入を得るために支出した金額のうち直接要したもの
*必要経費控除の条文構造
・不動産、事業、山林、雑から控除可能
・原則:原価+費用(所税37)
・例外:資産損失(所税51)
→事業に必要ではなかったが、事業と関連性を持つ支出を控除
・家事人家事関連費の必要経費不算入
→消費に使った支出は必要経費に算入しない
→経費控除の本質を確認した規定
*必要経費の年度帰属
・原価:対応する収入が生じた年度
・費用:債務の確定(原則)
⇔償却費
→実務上の要件
・債務の成立(≒契約)
・給付原因事実の発生(≒相手方の反対給付の履行)
・金額の合理的な算定可能性
・実際に払った年度に控除されるとは限らない
→(質的)担税力に応じた公平な課税方法が必要
⇔量的担税力:累進税率
資産性所得(モノから得る所得)
>資産勤労結合性所得
>勤労性所得(サービスから得る所得)
収入を得る方法によって、担税力は異なるのでは?
→(質的)担税力に応じた公平な課税方法が必要
⇔量的担税力:累進税率
資産性所得(モノから得る所得)
>資産勤労結合性所得
>勤労性所得(サービスから得る所得)
→身体を資本とするよりも、モノを資本としたほうが楽に収入を得られる
回帰性所得>非回帰性所得
→いつも得られるわけではない所得は、担税力が弱い
回帰性… 資産性→利子、配当、不動産
資産勤労結合→事業
勤労性→給与
その他→雑
非回帰性… 資産性→譲渡
資産勤労結合→山林
勤労性→退職
その他→一時
*計算方法と損益通算
必要経費控除:不動産、事業、山林、雑
概算控除:給与、退職
1/2課税:退職、長期譲渡、一時
損益通算
→その所得分類の損失を、他の所得分類の所得と相殺
→損益通算は、不動産・事業・山林・譲渡で可能
*譲渡所得
譲渡所得:モノを譲り渡して得た所得
「資産」「譲渡」の意義は争いになりやすい
→1/2課税、損益通算が原則可能など
計算:総収入金額ー(取得費+譲渡費用)
取得費:取得価額+設備費+改良費+付随費用
個人→法人の無償譲渡(贈与):有償と擬制(所税59)
個人間の無償譲渡(相続、贈与):課税繰延(所税60)
*譲渡所得の学説
・譲渡益説
→資産を譲渡して実際に得た収入が課税対象
→無償譲渡契約は限定的な場合のみで、所税59は例外扱い
・増加益清算説(判例通説)
→本来所得として課税されるべき資産の値上り益に対して、譲渡時に実現したものとして課税
→本体ならば無償・有償問わず課税される(所税59が原則)
→個人間贈与には贈与税が課されるため、所税60は特例で課税を繰り延べているだけ
*疑問点
・財産分与=「譲渡」?
・金銭債権=「資産」?
・経営破綻した銀行の株式=「資産」?
馬券を自動購入する自作ソフトで毎年10億円ほどの馬券を購入していた被告人
差し引きで毎年1,000慢円規模の利益を得ていた
↓
争点:はずれ馬券の購入費用を当たり馬券の収入から控除できるのか?
前提:当該収入が一時所得なら控除不可(毎年1億円超の課税)
雑所得なら控除可能(毎年1,000万円前後の課税)
判決:第1審、控訴審ともに雑所得と判事
所得分類の判断では「所得及びそれを生じた行為の具体的な態様も考察すべき」
→つまり、「○○契約=○○所得」ということではない
実際に、当たり馬券収入は一時所得として扱うことが通常
担税力を考慮するためには、法的形式と具体的な態様を考慮するのが好ましい
⇔不安定な仕組みで税負担が大きく左右されるべき?
・計算方法:法定額で控除、実額は原則として控除不可(所税28②③)
⇔例外:特定支出控除(所税57の2)
→実額控除は不要?
→従来、担税力の弱さや捕捉率の差から、給与所得控除額は高額とすべきであった
⇔サラリーマンに対する優遇では?
→平成30年度改正で、給与所得控除額を減額し、基礎控除を増額(第7回)
※所税28①には、給与等の意義が詳しく書かれていない
「雇用契約又はこれに類する原因に基づき①使用者の指揮命令に服して提供した②労務の対価として受ける給付」
※近年はその範囲が広がっている
Ex.麻酔科医の報酬、家庭教師として勤務した際の報酬
*フリンジ・ベネフィット
「労務の対価」とは?
→フリンジ・ベネフィット課税
→本来であれば課税されるべきだが課税されていない場合が多いとされる
⇒実現主義、評価の困難性
*源泉徴収制度
所得を支払った人が翌月10日までに所得税を支払う:「天引」⇔所税222
181条以下に規定
→銀行預金の利子:所税181①
→プロ野球選手の年俸:所税204①四
原則:確定申告の段階で調整:所税120①四
Ex.申告所得税額が20、源泉徴収額が100の場合、80が還付される(所税122①)
※受給者の所得税の前払いと捉えられているが、法律上は支払者が国に対して負う義務と規定
→受給者と国の関係は?
所税183以下
・賞与(ボーナス)にも適用:所税185、186
・配偶者控除などを考慮
⇒精微な源泉徴収制度
→家族の状況などを支払者を通じて税務署に申告(所税194~198)
*年末調整
12か月分の給与に対する現象就学の合計と、その年の合計の所得税額は必ずしも一致しない
↓
年末調整(所税190)
・給与等の支払者が源泉徴収税額と最終的な所得税額の差額を調整
・原則、年末調整によって確定申告をしても意味がなくなるため、確定申告は不要(所税121)
→申告するのは、他に所得があったり、医療費控除や寄付金控除の適用を受けるなどの場合のみ
原告が、退職した会社から一定の給与を受け取ったが、過大に源泉徴収された
↓
争点:確定申告で過大な税額分の還付を受けられるのか?
EX.300しか源泉徴収を受けるべきでないところ、500源泉徴収された
最終的な税額が200だった場合、確定申告で300の還付を受けられるのか?
確定申告では100しか還付を受けられないのか?
(200は国→支払者→受給者に還付)
判決:第1審、控訴審ともに納税者敗訴
確定申告で申告所得税額から控除できるのは、「正当に」徴収された又はされるべき源泉徴収税額のみ
仮に誤りがあれば、受給者は支払者を通じて調整するほかない(過誤納金の還付)
受給者は、源泉徴収制度において徹底的に排除
⇒疑念も多い
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