相続税
相続税は二重課税? →遺産に課税すべき根拠(遺産税・財団税)→遺産は被相続人の才能に対して社会から預けられたものであり、死亡時には社会に返すべき
→所得税の租税回避などによって蓄財した部分について被相続人の死亡を機に課税
→ただし、遺産はただのモノであり、確定申告はできない
→遺産という財産をもって財団を作り、その財団の管理人が相続税の支払いや財産の分割を行う(米・英)
→遺産取得税方式の長所:所得に対する課税として、担税力の観点から正当化が容易(←担税力は個人が持つ)
⇔遺産税方式は担税力の観点から疑問の余地
→遺産取得税方式の短所:累進税率を前提とすると、遺産をなるべく細かく分割した方が有利
→分割が困難な財産を相続する方が不利
→農地などの相続の場合、細かく分割しすぎると事業の継続が困難(「田分け」)
→遺産を取得した相続人に課税すべき根拠(遺産取得税)
→遺産の取得による所得に対して課税、所得税の一種である
→遺産の取得による多大な所得を再分配する
→所得税を課すだけでいいのでは?
⇔相続人は相続財産を一度に取得するのではなく、遺産に対する寄与をもって少しずつ持分を形成
⇔乏しい遺産で暮らす遺族の生活の圧迫
⇔多額の遺産を取得した相続人は通常の所得よりも高い担税力を得ている
→「狭く重く」課税
現行制度 最初は遺産税的
→民法上の相続財産に一定の調整をして課税財産を決定
→課税財産の時価から債務額を控除して課税標準を算定
→課税標準から基礎控除額を控除した後、各相続人が法定相続分で相続したものと仮定して税率を乗じたものを足し合わせて相続税の総額を算定
→その後は遺産取得税的
→上記の相続税の総額を、実際に分割を受けた遺産の割合に応じて各相続人に配分(相続人の性質により軽減措置などあり)
納税義務者 →相続または遺贈により財産を取得した個人(相続1の3)
→日本国内に居住している者 or 国内の財産を取得した者(相続1の3①13・④)
→上記に該当しない場合、日本国籍を有して10年以上国内に住所があれば納税義務者
→該当せずとも、被相続人が日本に一定期間住所を有していたり日本国籍を有していれば納税義務者
→国外への移住による相続税逃れ
→日本国籍があれば、海外に住んでいても相続税を納めるべきか?
課税財産 ・民法上の相続財産と遺贈により移転する財産が出発点(相続2)
・名義ではなく実質をもって判断される:東京地判平成20年10月17日税資258号順号11053(銀行口座)
・一定の財産は相続または遺贈により移転したものとみなす(相税3,4)
・相続開始前3年以内の贈与は相続による移転とみなす(相税19)
・一定の財産は相続財産から除く(相税12)(Ex:三種の神器(同条①一)、墓所(同項二))
債務控除・基礎控除 ・課税財産(+)から一定の債務(-)を控除する:債務控除(相税13,14)
・相続の際現に存するものか(相税13①一)、葬式費用(同項二)
・相続途中(遺産分割,遺言執行etc.)に生じた債務は控除不可:大阪高判昭和59年7月6日行集35巻7号841頁など
・その後、相続人の数に応じた基礎控除:相税15
・3,000万円+600万円×相続人の数
・ただし、養子の数については制限あり:同条②
– 節税目的での養子縁組の有効性:最判平成29年1月31日民集71巻1号48頁
遺産分割と相続税 相続税の総額を実際の取得額に応じて配分(相税17)
→遺産分割が終わっていればその割合
→相続税の申告期限は、相続があったことを知った日から10ヶ月以内(相税27)→未了の場合もある
→遺産分割未了の場合、法定相続分に従って暫定的な申告(相税55)
→実際に分割後、遡及的な修正(相税30~32)
→遺産分割をやり直した場合にどのように扱うのか?:グレーゾーン(cf. 東京地判平成21年2月27日判タ1355号123頁)
現行制度の問題点 ・相続全体の事情が変動すると,自身が分割を受けた金額が変わらなくても相続税の総額が変動するため,修正申告(税通19)や更正の請求(税通23)が必要
←遺産を誰かが隠していた,遺産が新たに出てきた,隠し子がいた
・税額が増える納税者(相続人)は、原則として加算税も課される(税通65以下)
・さらに、他の相続人が相続税を納めない場合には、自身が相続税を納めていたとしても、他の相続人の義務を追加的に課される場合も:連帯納付義務(相税34①②)
・相続人皆が仲が良い状況を前提にした、「イエ」的な制度は果たして妥当か?←「争族」
贈与税
贈与税ではマイナス利益を計算しない法人が贈与を受ける=無償による資産の譲受けによる収益
→法人税
※ただし、公共法人は法人税の納税義務はない
また、公益法人等が非収益事業に関して贈与を受けた場合には課税されない
個人による贈与…家事費
法人による贈与…一部損金不算入の寄附金
※国・地方公共団体・公益法人等に対する一定の寄附を行うと……?
→個人なら所得控除、法人なら全額損金算入
法人から贈与を受ける=『財産の取得』という所得を得ている
→所得税の課税、贈与税は非課税
個人から贈与を受ける
→贈与税が課され、所得税は非課税
※みなし贈与に該当する場合も同様
Q.贈与した財産が譲渡所得が生じる資産だと?
A.法人が行った場合、時価譲渡をしたものとして益金が生じる⇒寄附金課税
A.個人→法人の場合、原則みなし譲渡課税だが、譲渡損が生じる場合は取得費と保有期間引継ぎ
個人→個人の場合、取得費と保有期間引継ぎ:課税繰延
贈与税の存在理由と概要
前提:相続税の存在
↓
相続税のみだと、生前贈与で課税を逃れられる
→相続税制度を適正に働かせるために贈与税を課す
=相続税の補完税、相続税法に規定されている
贈与で財産を取得した個人が納税義務者(親族間の贈与に限られない点に注意)
その年に取得した財産の価額が課税標準、費用控除はなし
税率の累進性は相続税よりも急であり、所得税よりも高率
相続時精算課税制度
・60歳以上の者から成人済みの推定相続人に対する贈与につき、特殊な課税関係を及ぼすことができる
⇒早期の財産移転の促進
・2500万円まで非課税⇔通常の贈与税は110万円/年
税率も20%の比例税率
・相続時に贈与を受けた財産を相続財産に足し戻して相続税を計算し、納付済の贈与税額を控除
⇒相続税負担は軽減できないが、贈与税の負担は軽減される
みなし贈与
贈与税は、個人間での民法上の贈与による財産の取得にのみ課される
↓
一定の取引につき、贈与とみなして贈与税を課す
Ex)贈与ではなく、価格1円で売買する
⇒低額譲受による、みなし贈与
Ex)金銭を消費貸借により貸付け、それを免除する
⇒債務免除による、みなし贈与
Ex)個人間でのその他経済的利益の供与=みなし贈与
※所得税との境界は曖昧
法律上の基準は「対価」
例えば、個人から政治家個人への政治献金は所得税の課税対象である
判例では、対価の有無については判示せず、相続関係や献金の使途を持って所得税と判断
贈与による財産取得の時期
Q.納税義務は「財産の取得の時」に成立するが、それはいつ?
A.契約締結時(=意思の合致)
⇔6年間バレなければ課税を免れる
A.書面によらない贈与については、履行が終わったとき(=実際に財産が移転した瞬間)
A.書面による贈与については、契約効力発生日と解されている
⇒実際には登記日で判断する裁判例も多い
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