権力分立のイメージ
(1)身分制社会と権力分立
力分立の標準的な説明:「権力の乱用を防ぎ国民の自由・権利を守るために、国家の統治権を性質に応じて異なる国家作用に「区別」し、それを異なる国家機関に「分離」した上で、互いに「抑制・均衡」させる発想」
フランス人権宣言 16 条(1789 年)
権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会はすべて、憲法をもつものではない。
この言葉は、立憲主義の核心を示したものとして、あまりにも有名
モンテスキューの権力分立
18 世紀のフランスの思想家モンテスキューの『法の精神』(1748年)第2部第11編第6章「イギリスの国制について」において「公民における政治的自由」を実現するために三つの国家権力を区別すべき
- 立法権力
→世襲の貴族の団体と人民の代表、君主が阻止する権能 - 執行権力(講和・宣戦、外交使節の派遣と接受、安全の確保、侵略の予防)
→君主 - 裁判権力
→その都度抽選で選ばれた市民の同胞
モンテスキューの前にロックの『統治二論』(1690年)立法権、執行権、同盟権の分離
モンテスキュー流の権力分立論の流布
アメリカ合衆国憲法(1788 年)やフランス人権宣言(1789 年)において「近代立憲主義」の核心として神聖視される
神聖視した国:イギリス・アメリカ・フランス+君主主権下のドイツや日本
しかし具体的な制度化は国によってさまざま
- アメリカ:今日でもなお、連邦議会、大統領、連邦裁判所の三つの機関が各々独立に自らの権力を行使する大統領制
- イギリス
- フランス 議会と政府がお互いに抑制・均衡するという議院内閣制
2 国家作用の分立と国家機関の分立
国家作用の分立と国家機関の分立は必ずしも同じではない
(1)国家作用の分立
A) 国家機関間の関係に関する権限の帰属は憲法の規定により定まる
例:衆議院解散権は国家作用のうちのどれでもない立法でも司法でもないから行政権と考えるのは間違い憲法の規定(7 条、65 条、69 条)で定まる
憲法7条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
- 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
- 国会を召集すること。
- 衆議院を解散すること。
- 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
- 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
- 栄典を授与すること。
- 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
- 外国の大使及び公使を接受すること。
- 儀式を行ふこと。
憲法65条
行政権は、内閣に属する。憲法69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
B) 国家作用の性質としては、立法・行政・司法は同格ではない
行政・司法は法律の執行を核とする国家作用であり立法作用の下にあるべきもの
C) 国家作用の範囲は、国により、時代により様々
例:立憲君主制下のドイツ・日本は、控除説を採用つまり国政に関する事項のうち、立法・司法に属するものは限られており、残りのすべてを行政に属するという考え(行政権優位の権力分立制)
(2)国家機関の分立
A) 現実の憲法は、一つの作用を一つの機関に排他的に委ねていない
例) 明治憲法:立法権を帝国議会と天皇に共有させる
例) 現憲法:78 条後段は、公務員の懲戒権を行政権に属するという前提の下で裁判官の懲戒処分を裁判所に委ねている
憲法78条後段
裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
B) 立法・行政・司法は憲法が与えた権限であり、その他に新たな権限を創設し、三つの国家機関に授与している
例:国会は「立法府」(立法権が与えられた)であると同時に内閣総理大臣の指名を通じて内閣を創設する権限も有している
*1 国家作用の説明:〇〇作用の形式的意義と実質的意義という言い方をする
例)「形式的意義の司法権」:実質的意義の司法権のほかに裁判所規則の制定権や司法行政権を含むという言い回しがある
3 日本国憲法における権力分立
通説:立法権は一般的・抽象的法規範の定立司法権は一切の法律上の争訟の裁判この区別の下で通常の行政権は「国務の総理」
憲法41条
国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。憲法76条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。憲法65条
行政権は、内閣に属する。
(1)国会による行政権に対するコントロール
A) 法律による拘束
国会の法律で内閣の権限を定めているから内閣が行う国家作用はすべて国会の定めた法律に拘束される
憲法73条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
- 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
- 外交関係を処理すること。
- 条約を締結すること。
但し、前項の条約に関しては、事前に、時宜により又は事後に、国会の承認を経ることを必要とする。- 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
- 予算を作成して国会に提出すること。
- この憲法及び法律の規定を実施するため、政令を制定すること。
但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
B) 財政面からの統制
憲法83条
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。憲法84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
財政法
C) 国政調査権の行使
憲法62条
両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
(2)裁判所による違憲立法審査権の行使
憲法81条
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
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